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朝日新聞 走る喜び支えて【義肢装具士・臼井二美男さん】

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朝日新聞 2006年12月21日掲載

走る喜び支えて 【義肢装具士・臼井二美男さん】

より速く走ることを追い求める、義足のランナーたちがいる。彼らを支える義肢装具士は、より良い義足を作るために試行錯誤している。駆け抜け、風を感じる―。病気や事故で足を切断しなければ当たり前だと思っていたことを、義足を履いた後も感じてほしいからだ。(大波綾)

マラソンの両足義足製作 板バネ利用で より速く

沖縄県で自動車整備会社を経営する島袋勉さん(43)は01年4月、海外視察の帰りに千葉県で列車事故に遭い、両ひざ下を失った。事故で頭部を強く打ち、ものが幾重にも重なって見える「複視」と記憶障害の「高次脳機能障害」の障害も負った。いわば三重苦。

そんな島袋さんだが、事故から4年弱でホノルルマラソンに出場、12時間59分29秒で完走した。

事故直後は義足での歩行もままならなかったが、訓練を積むうち「絶対にあきらめない」という気持ちが芽生えた。自動車の運転、スキューバーダイビングと次々に挑戦していった。究極の目標がフルマラソンで、見事に成し遂げた。

ホノルルへの参加を決めたとき、成功の可能性を病院や義足メーカーに聞くと、「無理でしょう」と否定された。本番までに義足の改良が間に合わず、競技用ではない義足で医療用の歩行補助つえを使いながら完走した。

無謀にも思われた挑戦に、ノーといわなかった専門家もいた。鉄道弘済会の東京身体障害者福祉センター(新宿区)に勤める義肢装具士の臼井二美男さん(51)だ。

パラリンピックの走り高跳びや走り幅跳びの選手の義足を手がけている臼井さんは、島袋さんについて「片足義足でマラソンに挑戦した人は知っていますが、世界でも両足義足で挑戦した人は記憶になかった。ものすごい精神力です」と話す。

ホノルルを完走した後、島袋さんはいよいよ臼井さんに義足の製作を依頼した。「もっとタイムを縮めたい」。完成したのが、つま先部分がしなる「板バネ」と呼ばれる部品を用いた競技用。バネの力を利用すれば、歩幅が大きくなる。短距離は格段に速くなった。

島袋さんは今年12月、20回目のマラソン出場となるホノルルに出た。だが、義足の履き心地には課題が残る。競技用は短距離走向きだが、バランスを取るのに力がいるため、フルマラソンでは上半身に負担がかかるという。

島袋さんと臼井さんの「より速く」への追求はこれからも続く。

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