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琉球新報 夢への挑戦‐ 富士山登頂記【下】逆境の中、ベスト尽くす

琉球新報9・1.jpg琉球新報 夢への挑戦 富士山登頂記 下 2007年9月1日掲載

逆境の中,ベスト尽くす

急いだため、かっぱを忘れてしまった。買いそろえて五合目に集合時間の二時間前には着くことができた。富士高女子バレー部員が受付や準備をしてくれた。参加人数は七十人を超えた。義足の調子はすこぶる悪い。午後四時には団結式をして出発した。初めて登る山であり、義足に気がとられ、山の情報もあまり集めていない。最初はなだらかな登り道、少し安堵した。しかし登るにつれて岩場が多くなる。岩場は今使っている義足では痛みが出やすい。痛みが次第に強くなってくる。どのように調整したらいいのか頭がフル回転する。

しかし、急いでいいかげんな調整をしてしまうとかえって足を痛めてしまうことになる。足への負担が少しでも軽くなるよう歩き方を工夫する。砂場は滑るが足への負担は軽くなる。用心しながら一歩一歩進む。ここまで時間弱。今日の予定は七合目の山小屋まで、そこで夕食のカレーを食べ仮眠する。

朝の集合時間は三時。なかなか全員そろわない。点呼をして新七号目の山小屋を出発したのは時半ころだった。砂地が続いた。足への負担が少ない。これが頂上まで続いてくれれば楽勝だ。しかしそうは問屋がおろさない。しばらくすると岩場になった。すると進む速度が落ち始めた。その時だった。私を追い越そうと後ろから来た若い人が岩伝いに追い越しをかけた。彼が岩から飛び降りたときのことだった。こともあろうか私の杖の上に着地したのだ。"ボキ"。鈍い音とともに杖は折れた。

義足の調子が悪い上、杖がなくては前に進むのが難しい。応急処置をしようにも道具もない。逆境の中でいつも考える事は"与えられた条件の中でベストを尽くすこと"。今できる事は何だろう!

まず壊れた長さの全然違う杖を突いて次の山小屋へ向かった。そこでサポートの人達が元祖七号目の山小屋の人にドリルとのこぎりを借りてきた。応急処置でどうにか長さを合わせることができた。

しばらく休憩をとって出発した。何度も休憩をとり前へ進み続けた。八合目、足の痛みで思考力は完全になくなっていた。一歩前へ進めば少し頂上に近づく。これだけを考え続けた。その時、朝日が昇りその美しさに足の傷みも忘れしばし見とれた。

そして九合目、岩場に苦しみながらも登り続けた。九合五勺、そこで皆が先に頂上へ行き、私を迎えることになった。頂上の鳥居が見える。見えてからの距離の長いこと。鳥居の周りで皆が待っている。皆の声援が聞こえる。あと少し。そして十時すぎ、ついに頂上にたどり着くことができた。はるか下に雲海が見えた。子供のごろの夢がまた一つ実現できた。

 

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