福岡県民新聞 夢をあきらめず挑戦を続けて
福岡県民新聞 2010年6月15日 掲載
夢をあきらめず挑戦を続けて
大川市PTA連合会 総会 記念講演より 義足のランナー 島袋 勉氏
私は事故によって両足の膝から下に部分を失いました。ご覧の通り義足を付けていますが、松葉杖を使ってホノルルマラソンをはじめいくつものフルマラソンを完走できました。また現在はダイビングや登山にも挑戦しています。
大切なものは夢を持ってあきらめず、それを実現するためには苦しいことを避けない、恐怖感から逃げない、逆にそれらを克服しようと挑戦することだと思います。今は新たな目標に向かって努力する毎日で、いつかは世界の最高峰、エベレストに登ってみたいとトレーニングを続けています。
電話での母の言葉
島袋さんは01年、千葉県内で起きた踏切事故によって両足を切断し高次脳機能障害(記憶障害)を負った。
ベットで目が覚めた時にはすでに両足とも失われていました。体を支えた立ち上がって自由に動き回ることが出来なくなって、初めて分かるんですね。足って良くできているんだな、歩けるって、凄いことなんだな。そんな当たり前のこと、考えたこともなかった。
病院からは「義足を使えば歩けるようになるかもしれない」と言われましたが、それまで義足など見たこともありませんでしたから。ああ、これで自分は一生車椅子の生活になるんだ、普通の人のような生活はもうできないんだー事故直後はこう思い込んでいました。
そんなある時、病院から母に電話しました。母は言いました。「これだけの経験をして何も学ばなければ、あなたはバカだよ。」何が言いたいのか分かりませんでした。よく考えると無意識のうちに同情、慰めの言葉を期待していたのかもしれません。自分の甘さに気付かされました。
このままではいけない、何か学ばなければならない、母の言葉はこう考えるきっけになったんです。
普通の人に近付く努力をするためには、まず現実を受け入れなければならない。こう考えて次の3つのことを決めました。
①ないものねだりをしない
②言い訳をしない
③障害を隠さない
両足がないことを悩むのは時間のむだです。それよりも今の自分にできることは何か、それを達成するめにはどうすればいいかを考え、実行に移しました。
まずは両膝で立って歩くことを始めました。ベットの上でやってみたのですが膝から下の部分がないためうまくバランスが取れず、体の重みで両膝が痛む。そこでバレーボール用のサポーターを着け、何とかベットからトイレまで行けるようになりました。
さらに今度は外を歩きたいと、靴を前後逆に履いて練習しましたが、周りは「さすがに外は危ない」。そんな恰好で歩いていると、車を運転する人がびっくりするというんですね。それでもとにかく、普通の人と同じように外を歩きたいと、国立市ハビリテーションセンターに移り義足歩行の練習を 始めました。
夢をもって生きる
そこでは義足を付けるための手術を何度か行い、さらに「膝を残すと痛みが激しいから」と両膝部分を切断し人工関節を使うように勧められました。一晩考えて結局、手術しないことに決めました。いったん失ってしまえば元に戻せない、痛みと仲良くしていこう、と。
リハビリでは歩行訓練や筋力トレーニング、バドミントン、サッカーの練習。また脳の障害で物が覚えられないので、起こったことなどをすべてメモする習慣を身に付けました。
センターには様々な障害を抱えた人がいましたが、よく見ると明るい顔をした人と暗い顔の人に分かれていたんです。将来の夢を語り何かに取り組んでいるのか、将来の不安を漏らしてばかりなので、人の表情って変わるんですね。障害にとらわれず、夢と希望を持って生きることの大切さを痛感しました。
自分は運が良かった
入院中、パラリンピックの義足を付けた選手の写真を頂きました。それまでは普通の生活ができればいいと思っていましたが、どうせならマラソンを走りたいと。最初は周り誰もが無理だと言いましたが、「できないかもしれないからやらない」というのは単なる言い訳です。「やってみよう」と決意し、決してあきらめなず、どうしたら目標に近付くことができるかを考えました。もちろん、家族をはじめいろんな方々のサポートもあって、何とか夢を実現することができました。
自分は本当に運が良かった。事故にあって「人生にはいつどんなことが起こるか分からない」と知った。おかげで今やりたいこと、やるべきことを先送りしない、後悔しない生き方を、母の言葉通り学ぶことができたのだと思いますね。
★本誌があらためて取材、再構成しています。
写真下
島袋勉 <しまぶくろ・つとむ>
1963年、沖縄県那覇市生 同市在住 04年12月、ホノルルマラソン完走そに後も多くのフルマラソンに挑戦 07年、富士山初登頂 現在、自動車販売整備会社「ラシーマ」代表取締役 著書に「義足のランナー」(文芸社)
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