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「なぜ、義足のマラソンランナーは誕生したのか?」志賀内泰弘

************************心にビタミンいい話************************

「なぜ、義足のマラソンランナーは誕生したのか?」               

 志賀内泰弘

以前、小紙「プチ紳士からの手紙」で、義足のマラソンランナー・島袋勉さんの話を紹介しました。

彼は、2001年4月10日千葉県船橋市の電車の踏み切りで事故に遭います。意識が戻ったとき、両足を失っていました。その上、脳の機能障害も起こしてしまい、つい先ほどの出来事さえも忘れてしまう状態に陥ってしまいました。それにもめげず過酷なリハビリを行い、ついには歩けるどころか義足でホノルルマラソンを完走してしまったのです。

猛烈な痛みを乗り越えて。

普通の人がマラソンを完走するというだけで大変なことです。会えば、笑顔のステキな普通の人です。彼のどこに、そんな大きな力が潜んでいるのか。きっと何か特別な生い立ちが、その精神力を育んだに違いない。それが知りたくて、再び会いに出掛けました。

島袋さんが幼い頃、家庭は経済的に苦しかったそうです。それで「おかず」といえば庭にできる「葉野菜」がほとんどでした。葉野菜を毎日食べていると妹が「トマトを食べたいよ~」といい出します。お兄ちゃんの彼は、トマトを一つ買ってもらい、トマトの種を植え育てその後、いつもトマトを食べられるようにしたそうです。

今度は、「ケーキが食べたいね~」と妹は言います。母親は「ケーキは家でも作れるのよ」と言います。かといって、作ってくれるわけではありません。そこで、島袋少年は図書館で「ケーキの作り方」の本を読み勉強します。作り方がわかりました。ところが、大きな問題が発覚します。ケーキを焼くには、オーブンが必要らしいのです。母親に「オーブンが必要らしい」と言います。すると、「捨てられているオーブンがあるといいね~」と言うのでした。

当時島袋少年のオモチャは買ってもらうものではなく、「ゴミ回収所」から拾うテレビやラジオ等の壊れたものでした。それを拾ってきては、自分で修理して遊んでいました。家電製品も、そうして自分で手に入れ修理して使っていたそうです。

オーブンを探していると話していたので、ある日アメリカ製のガスオーブンが捨てられている!と、連絡があったそうです。ついにガスオーブンを拾ってきました。でも壊れているので、マッチで着火したそうです。温度調節機能も壊れているので、自分の目で焼け具合を確認してオーブンを開けたりして温度を調整しながらケーキを焼いたそうです。

幼い頃から母親に言われていたそうです。

「お金がないと知恵がつくね」

 二十歳の時、島袋さんは独立し車検センターを開業しました。そのきっかけは、自分の車を車検に出した時、業者の人に見積書を頼んだら、「車検は終わらないといくらかかるかわからないよ」と言われたことでした。30年近く前、それが業界の常識でした。でも、「それはおかしい」と思いました。それなら自分で車検センターの仕事をやろうと思ったのです。

整備士の資格もありません。経営のノウハウもありません。でも、わからないことは全部お客様が教えてくれたといいます。車の修理の話を専門業者に尋ねると、なんだか難しい言葉で答が返ってくる。まるで「そんなこと訊くな」と言わんばかりに。業者の方が「教えてやる」といった態度をとっていました。

そこで、長く車検の業界にいる経験者より、やる気のある若い人を採用しました。最初、お客様に聞かれてもわからないのですが、お客様の方がいろいろ教えて下さって成長したそうです。

ある時、車検工場の壁をすべて明るい色に塗り替えました。柱もきれいなパステルカラーにしました。それまでは、どこの自動車工場でも黒い油だらけだった床を、ピッカピカに磨きました。作業着で床に寝転んでも汚れないくらいに。

お客様に、その工場に入っていただき、車検や修理の現場を見てもらえるようにしたのです。これは「業界の革命」だったそうです。整備士にとっては、立ち入ってもらいたくない聖域。見られたくない場所でした。でも、自分の車を整備する現場を見られないという方がおかしい。島袋さんはスタッフの反対を押し切って実行しました。

すると、「キレイな工場」ということで客様が次々に来てくれるようになりました。

この二つのエピソードを伺い、膝を叩きました。「ここに、彼の負けじ魂がある」と。

常識を疑う。

人とは違う発想をする。

あきらめない。

「両足を失った時も、このスピリッツが彼を支えたんだ!」と頷きました。彼は仕事の傍ら、全国の小・中学校を回って、この島袋スピリッツを伝える日々を送っています。

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