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「僕は役に立つ物質を作るんじゃなく、見つけているだけ。」

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<ノーベル賞>「泥にまみれる」...大村さんミクロの大仕事

 10月5日(月)21時11分配信

 手作業で採取した土から、有用な化学物質を作り出す微生物を探す地道な研究に、大きな光が当てられた。ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった大村智(さとし)北里大特別栄誉教授(80)は、スキーの国体選手、定時制高校の教師と、アカデミズムからは遠い世界を経て研究の道に入った。5日、記者会見で「微生物の力を借りているだけ」と繰り返した大村さんに、学生らから祝福の拍手がわいた。

【写真】2004年にアフリカを視察する大村智・北里大特別栄誉教授

 「泥にまみれる仕事」。大村さんは、土の中の微生物が作り出した化学物質を調べる自身の研究を、そう表現する。

 山梨・甲府盆地の自然豊かな環境で育った。学生時代は勉学よりスポーツに熱中し、距離スキーで国体にも出場。東京都立墨田工業高の夜間部の教師として社会人のスタートを切ったが、ある日、試験用紙を配る際に、生徒の指先に昼間働く町工場で付いた油がこびりついているのを見て胸を打たれた。「真剣に勉強したい。自分も学び直そう」

 東京理科大大学院を経て、郷里の山梨大へ。ここでブドウ酒の研究に関わり、微生物の面白さに触れた。29歳の時に北里研究所(東京都港区)に入所。誰よりも早い朝6時に出勤し、教授の講義時の黒板ふきと論文の清書に明け暮れた。

 6年後に訪れた留学の機会が大きな転機になった。5大学から招きがあり「直感で」最も給料の安かった米ウェスレーヤン大に客員教授として赴任。大物研究者と交流を深めるうち、自分で研究費を集め、社会に還元するというスケールの大きな米国流の研究スタイルを学んでいった。

 2年後に帰国して北里研に研究室を持った時のスタッフは、高卒と大卒が主体のわずか5人。全員、外出時にはいつも小さなポリ袋とスプーンを持参し、各地で土を採取して持ち帰った。顕微鏡で微生物を探し、生産している化学物質を分離・培養する。地道な作業を繰り返す中で、ヒトにも動物にも劇的に効く「エバーメクチン」を発見した。

 1979年、牛に体重1キロ当たり200マイクログラムを1度飲ませるだけで体内にいる5万匹もの寄生虫を100%駆除できるとの成果を学会で発表すると、会場は異様な興奮に包まれた。「なぜ1回の投与で効くのか?」。相次ぐ質問に、大村さんは「効くから1回なのだ」と答えたという。

 2004年、大村さんは初めてアフリカのガーナを訪れた。過去に感染症のオンコセルカ症が流行した地域では、安全地帯を求めて捨てられた集落の跡がいくつもあった。集団投与を終えた集落の学校に立ち寄ると、好奇心に満ちた目で子どもたちが待っていた。

 簡単な英語で自己紹介したが「ジャパン」にも「トーキョー」にも反応はない。「メクチザン(特効薬の商品名)知っていますか」と問いかけると、歓声が上がった。案内役が「この先生はメクチザンを作った人です」と紹介すると、子どもたちが駆け寄ってきた。「自分の研究が役に立った」と初めて実感できたという。

 薬の売り上げによる特許収入を、大村さんはさらなる研究や医療の発展に注ぎ、埼玉県内に新病院も建てた。「研究を経営する」と称し、資金難に苦しむ北里研究所の経営改革にも尽力した。

 大村研の成果をまとめた黄色い表紙の冊子は「イエローブック」と呼ばれ、世界の研究者の参考書になっている。タイトルは「微生物からの素晴らしい贈り物」。7月に刊行された第5版には53種の微生物、480種以上の化合物が紹介され、大村さんは「新発見した化学物質の頭文字がAからZまでそろっているのは、うちだけ」と笑顔を見せる。

 「僕は役に立つ物質を作るんじゃなく、見つけているだけ。だから微生物へのリスペクト(敬意)を忘れない」。数々の学術賞を受けるたび、大村さんが口にする言葉だ。【清水健二】

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