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みやざき中央新聞 「覚えるために書かない 記憶が残らない病気との闘い」

2008年1月1日 みやざき中央新聞掲載

「覚えるために書かない 記憶が残らない病気との闘い」
 ㈱ラシーマ代表取締役 島袋 勉

2001年、37歳のとき、踏切横断中に転倒し、意識を失ったまま列車にひかれ、両膝の下から切断。同時に頭を強く殴打したため、読んだ本や話などを次から次へと忘れてしまう記憶障害になる。
 事故から3年8ヶ月後、島袋さんは復活した。史上初の両足義足のランナーとしてホノルルマラソンに出場し、完走。記録は12時間59分29秒。その後も数々のマラソンレースに挑戦してきた島袋さんは、テレビ「奇跡体験!アンビリーバボー」でも紹介された。また記憶障害も独自の訓練方法で乗り越えていった。

 私の高次脳機能障害というのは、外的な衝撃によって脳の機能は破壊され、その結果、記憶が残らないという障害です。
 だから,医者からは忘れないように対処療法として、とにかく何でもメモを取ることを勧められました。
 退院したあと、会社では、「もし私がメモを取っていなかったら、すぐに注意してくれ」って、社員に言ってました。
 一日のうち、やらないといけないことはカードに書いて壁に貼る。誰かと話をしたら、その内容も全部カードに書いて貼る。部下に仕事の指示をしたら、それも全部カードに書きました。
 そして、仕事が終るとカードを見ながら確認します。終ってもカードは捨ててはいけないんです。それを残して置かないと、やったかどうかも分からなくなるからです。
 ところが、ある時、ハッと気づいたんです。「メモを取っていると、覚えなくなってしまう」って。
 メモを取ると、あとでそれを見れば思い出すからいいんですけど、記憶力の回復にはならない。記憶力を本当に取り戻そうと思ったら、むしろメモを取らないほうがいいんじゃないかって気づいて、できるだけメモをとらないようにしました。
 それは、映画を観ててハッと思気づいたんです。ヤクザが博打をする時、紙に書くと証拠が残るので、証拠を残さないようにすべてを記憶するという場面があったんです。それを忘れてしまうと袋叩きに遭うので、必死に覚えようとするんですね。そのシーンを観ていて、「どうしても覚えなければならないという気持が在り、なおかつ、書くことが許されない環境であれば、絶対に覚えられるんだ」と思いました。
 また、世界的な理論物理学者であるホーキング博士もそうでした。博士はALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病のため、書くことができないんですね。だから、彼もすべて覚えなきゃいけなかったんです。
 それで、私も書いてばかりいたら覚えない。逆に書かないようにすることで、記憶力を鍛えようとしたのです。

  「脳の3%ぐらい壊れても、どうってことない。残りの97%を使おう!」

 この記憶障害は、これまで医学的に回復する方法はないと言われてきた病気でした。だから私は、自分でいろいろ調べました。
 本で読んだんですが、脳って3%しか使っていなくて、残りの97%は使われていないそうなんですね。
 そのときに思ったことは、3%の一部が破壊されたからといって、そんなにショックを受けることはないなぁといういうことでした。まだ97%も使われていない部分があるなら、そこを使えるようにすればいいと思ったんです。それでそこを使う方法を調べました。
 その一つ。私の友だちに脳性まひの人がいます。手が自由に動かせない彼は,携帯電話を掛けるとき,床に携帯電話を置いて、足でボタンを押すんです。そして、体をピタッと床にくっつけて話をするんですね。メールも足で打ってました。
 食事をするのも足でスプーンを使って食べたり、料理も足で包丁を持ってじゃがいもの皮をむいたり、洋服も足で着替えていたんですね。
 その人を見てハッと気が付いたんです。そういうふうに使っていたら、そういうところがどんどん発達して、それに適したように進化していくんじゃないかと。だったら脳もきっと同じように進化していくはずだと思ったんです。
 
 「赤ちゃんの全てを真似していけば脳が活性化するはずだ」

 もう一つ。医者からは、「一度破壊された脳細胞は二度と回復しない」と言われていました。だったら、新しい脳細胞を活性化させればいいんじゃないかと思いまして、そのとき、ふと思ったのは、赤ちゃんでした。赤ちゃんはいろんな経験を通して脳を発達させているということに気がついたんです。そこで、赤ちゃんの真似をしてみようと考えました。
 赤ちゃんをよく観察していると、五感をフルに使っています。たとえば、何でも触ってみる。触ったら、口に入れて舐めています。時には畳とか床も舐めています。土とか葉も舐めます。だから、私もとにかく何でも触って舐めてみました。
 それから音。いろんな音を聴くんです。赤ちゃんの音の聴き方というのは意識せずに、ただ聴くだけです。たとえば、水の音とか風の音とか、そういう音を意識しないでただ聴く。
 だから私も、音楽を聴くとき、「どんな楽器なのかな」とか、「どんな曲目なのかな」とか、そういうことは一切考えず、ただ聴くだけにしました。
 それから鼻。どんなものでも匂いを嗅いでみる。香水とか料理とか、あるいは腐ったものとか。
 赤ちゃんの視線って結構短時間でどんどん変わっていくんですね。これも真似してみました。一点をじっと見つめるのではなくて、短時間で視点を移していくんです。
 そして、ハイハイも真似しました。真似してみると、赤ちゃんのハイハイは、五感全部を使った運動だったんだということが分かりました。
 とにかく脳を活性化させるためには、何でもやってきました。そうすると今まで使ってこなかった脳細胞が動き出すんじゃないかと、それを信じてずっと五感を使うことを繰り返してきました。今も続けています。
 今ではほとんどメモなしで日常生活を送れるくらい記憶は回復しています。
(講演で訪れた宮崎文化本舗・キネマ館でインタビュー)

 

 

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