最後まで自分に出来るベストを尽くす姿に感動しました。
平たんではなかった道のり
「前回のチャンピオンとして決勝まで進んだことは、評価に値する」。決勝を終えた佐々木則夫監督は、選手たちをたたえました。目標の大会連覇はなりませんでしたが、事前の評価が高くないなかで試合を重ねるごとにチームがまとまり、勝ち進んだことを評価したのです。
連覇に挑んだ「なでしこジャパン」の道のりは平たんではありませんでした。
4年前の前回大会では、なでしこの「全員攻撃と全員守備」が世界に衝撃を与えましたが、世界のライバルは日本の戦い方を徹底して研究し、多くのチームが日本的な組織プレーで対抗、逆に日本が思うように勝てなくなっていきます。
女子ワールドカップの前哨戦となったことし3月の国際大会、アルガルベカップでは厳しい現実を突きつけられ、12チーム中、過去最低の9位に終わりました。この時は攻撃も守備も思ったような戦いができずに空回りし、キャプテンの宮間あや選手も「不安でしかたがなかった」とこぼすほどでした。
連覇へ新たな戦術を
それでも佐々木監督は、新たな手を打っていました。
それは従来どおりの短く素早いパス回しに加えて、相手の意表を突くようなロングパス1本で縦に速い攻撃を展開し、局面を打開することでした。日本のパスサッカーを警戒する相手に対し、その裏をかこうとしたのです。
キャプテンの宮間選手は「世界と戦ううえでは新たな戦術も成熟させないといけない」と、大会期間中は毎晩、選手どうしで熱く議論しながら、目指す戦術の理解を深めていきました。
「日替わりヒロイン」で勝ち進む
6月、女子ワールドカップが開幕。なでしこが連覇に挑む戦いがスタートしました。なでしこは2つの攻撃の形を試しながら、1次リーグから接戦をものにしていきます。
その中で『日替わりヒロイン』も生まれました。
5人の選手がワールドカップ初得点をマーク。初優勝を果たした前回大会の6試合のうち、3試合で澤穂希選手がゴールを決めたのとは対照的です。
澤選手も「いろんな選手が得点を取っていることはチーム層が厚くなっていると思う」と手応えを感じていました。
その"ヒロイン"の中で強烈な印象を残したのが、ワールドカップ初出場のサイドバック、有吉佐織選手でした。
ふだんはフットサル場で働くアマチュア選手で、「すぐに緊張してしまう」と初々しさものぞかせていましたが、グラウンドでは一変し、献身的な守備にとどまらず積極的な攻撃参加でレギュラーの座を勝ち取り、7試合中6試合に先発しました。
決勝トーナメント1回戦のオランダ戦では、代表初ゴール。世界的には無名だった27歳の遅咲きの"ヒロイン"が、大会の最優秀選手候補8人の1人にも選ばれました。
チームを支えた2人のベテラン
「なでしこジャパン」はキャプテンの宮間選手を中心にまとまっていきましたが、そのチームを支えたのは2人のベテランでした。
安藤梢選手(32)。チームで2番目の年長者ですが、「いじられキャラ」として若手からも慕われています。
安藤選手は5月、所属しているドイツのチームで、念願だった女子のヨーロッパチャンピオンズリーグの優勝を経験しました。それでも「カップを掲げた瞬間から、次は再びワールドカップを掲げたい」と切り替え、チームの祝勝会もそこそこに、すぐに帰国し、大会に備えました。
安藤選手は4回目のワールドカップですが、これまでに得点を挙げたことはないため、「最高の舞台でのゴール」を目指しましたが、夢は初戦でついえます。
ゴール前へ飛び出した際に相手ゴールキーパーと接触して、左足首を骨折。チームを離れることになってしまったのです。
チームメートは、安藤選手の背番号「7」のユニフォームを白いクマのぬいぐるみに着せて、安藤選手の思いと共に一緒に戦い続けました。
安藤選手は毎試合、試合前のロッカールームのチームメートにインターネット電話で顔を見せて激励しました。
チームは「安藤選手を決勝に連れて行く」を合言葉にし、その目標を達成。日本で手術した安藤選手も決勝を前にバンクーバーに駆けつけ、「連れてきてくれたみんなに感謝」と喜び、23人全員で決勝に臨みました。
もう1人のベテランは、チーム最年長の澤穂希選手(36)です。
「私がキャプテンのときにも支えてもらったので、今度は私が支える番」と献身的にキャプテンの宮間選手をサポートしました。そしてプレー面では、「試合を逃げきる際の切り札」としての役割を果たします。
男女を通じて世界最多6回目のワールドカップ出場、20年以上にわたって日本の女子サッカー界を引っ張ってきた"レジェンド"が、レギュラーではない役割となったのです。 それでも澤選手は、「今、自分ができることをやるだけ」とチームを支えます。
ベンチではレギュラーの選手に水の入ったボトルを渡す姿が見られ、ロッカールームなど人目につかないところでもアイシングのための氷を袋詰めするなど、裏方の仕事を率先して行っていました。
準々決勝のオーストラリア戦では最年少22歳の岩渕真奈選手が途中出場する際、「決めて来い」と激励して送り出し、岩渕選手が決勝ゴールを決めると、「控え選手が試合を決めたかった」と自分のことのように喜んでいたのも印象的でした。
最後と位置づけた6回目のワールドカップは、これまではとは違う場所から見て感じた大会となりました。
成果表れた準決勝
「なでしこジャパン」が目指してきた新たな攻撃の戦術は、準決勝のイングランド戦で成果が表れました。
これまで1度も勝ったことがない相手に短いパスを回す攻撃が封じられるなか、阪口夢穂選手が出した1本のパスが局面を打開しました。有吉選手があうんの呼吸で飛び出したことで相手のファウルを誘い、先制のペナルティーキックを得たのです。
パスを出した阪口選手は「相手の対応を見ながら攻撃を使い分けることができた」と手応えをつかみ、佐々木監督も「長短あわせたサッカーでないと、相手の堅い守りを崩せない」と自信を深めました。
決勝の相手はアメリカ。前回大会、そして3年前のロンドンオリンピックと世界大会の決勝では3大会連続での対戦でした。
警戒していた以上のスピードでの攻撃や、裏をかかれたセットプレー、それに相手のミスを逃さない決定力など、アメリカには多くの課題を突きつけられ、大量失点で敗れましたが、なでしこも、宮間選手のロングパスを起点にエースの大儀見優季選手がゴールを決め、今大会で戦術の幅を広げた進化の証しを見せました。
リオ五輪で再び世界の頂点を
「なでしこジャパン」の次なる目標は、来年8月のリオデジャネイロオリンピックです。再び世界の頂点を狙う戦いですが、まずは来年2月からのアジアの予選を勝ち抜いて出場権を獲得しなければなりません。
アジアからのオリンピックの出場枠は僅か2つしかありません。
今大会はオーストラリアと中国がベスト8。韓国も初めて決勝トーナメント進出を果たしました。さらに今大会には出場していない北朝鮮に、日本は去年秋のアジア大会の決勝で敗れています。
ワールドカップ準優勝で得た収穫と課題を胸に、なでしこジャパンの世界一を取り戻す戦いが再び始まります。
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